
『ひとごとごと』(オカヤイヅミ/KADOKAWA)は、「結婚するか」「子どもを持つか」という人生の選択によって分類されてしまう近未来を舞台に、人との関わりが整理されすぎた世界で人間はどんな感情を抱くのかを描いた作品である。
舞台となるのは、震災後に合理性を追求した結果、人々が3つの地区へと分断された社会。子育て世帯が暮らす「文教地区」、労働者たちが集まる「商業地区」、そして高齢者たちが余生を送る「保養地」。結婚するかしないか、子どもを産むか産まないかの選択によって、人々はそれぞれのコミュニティへ振り分けられていく。合理的で優しくも思えるこの線引きは、やがて人間関係から「偶然」や「余白」を奪っていく。
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主人公・先山あさみは、中古マンションのリノベーションデザイナーとして働く44歳の女性。独身で子どものいない今の生き方は後悔していない。そんなある日、街ですれ違った女子中学生に対して、ふと「なにかしてあげたい」という感情が湧き上がる。この小さな心の動きが本作の核になっている。
あさみは結婚せずにひとりで生きる選択をした自分の人生を否定しているわけではない。ただ、社会が合理化され、人と人との距離が整理されすぎた結果、「本来なら関わっていたかもしれない他人」と接点がなくなっていることへの違和感を持っていた。この世界は荒廃しておらず、むしろ安全で快適である。それなのにどこか息苦しいのだ。「人と関わる煩わしさ」を取り除いていった先に、本当に豊かな社会はあるのかという問いが読み手に突きつけられる。
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他人に対して心が動いた瞬間に自分の人生が大きく動き出すことがある。本作は、人は合理性だけでは生きられないこと、そして偶然の連続が人生に彩りを与えてくれることを逆説的に教えてくれるのである。
文=富野安彦
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