
バンドで音を出す喜び、上京、メジャー・デビューと契約終了、バイク事故、友人の死、結婚と子供の誕生、そして吃音。LEGO BIG MORLのタナカヒロキが書き下ろした初めての小説『陽と月』は、主人公・月と、音楽仲間である陽の関係性を主軸として、バンドマンの生き方を生々しく描いた小説だ。その物語は、タナカ自身の実体験をもとにしているという。今回は、そんなタナカと長年のバンドマン仲間であり、自身も実話をもとにした小説『都会のラクダ』を発表しているSUPER BEAVERの渋谷龍太との対談が実現。「バンドマンが小説を書くこと」をテーマに、ふたりに語り合ってもらった。
——おふたりの出会いはいつ頃だったんですか?
渋谷龍太(以下、渋谷):最初がいつか、全然覚えてないですね。僕らのイベントに出ていただいたり、九州で対バンしたり、そういうのは覚えてるんですけど。
タナカヒロキ(以下、タナカ):最初のことは覚えてないですね。ライヴハウスでそれぞれ頑張ってると、自然と会うことがいっぱいあって。九州であろうが大阪であろうが、ライヴハウスで定期的に会う仲だったので。
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渋谷:僕らはLEGOのことはずっと知ってましたよ。MTVとかスペシャ(スペースシャワーTV)とかでMVがめちゃくちゃ流れてたんで。
タナカ:こっちのセリフですって(笑)。だって、SUPER BEAVERってデビューが早くないですか? デビューだけで言ったら俺が後輩なんじゃないかと。
渋谷:そうかも。4月で21年になりますから。
タナカ:LEGOは明後日(取材時)で20周年なんで、1年先輩です。敬語で話します(笑)。
——おふたりとも小説を書かれましたが、書くきっかけはどんなものでしたか?
タナカ:LEGO BIG MORLというバンドは、ヴォーカルではなく、ギターの僕が歌詞を書いているちょっと変なバンドで、言葉をずっと大事にして生きてきたんです。ただ、バンドってメンバーのものだから、言葉が溢れていても、曲がないとその言葉を乗せるところがない。そのなかで何年か前から、自分が運営している『KITSU』というウェブサイトで、コラム(『行間と字余り』)を書くようになって、それを人に見てほしくなり、まとめて本にしたいと思った、という順番でした。実は僕は吃音症なんですよ。吃音症の認知向上を図るウェブサイトを立ち上げて、そのなかで言葉に詰まる吃音者が言葉を綴るのが面白いんじゃないかなと思って始めたのが、そのコラムでした。
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渋谷:僕は、自分たちのバンドの軌跡を知っていただくことが面白いんじゃないかなと思って。いろんな方に力を貸していただいて、ようやくここまで頑張ってこられたバンドなので、そういう自分たちの歴史を知ってほしいなと思って、一番最初にブログで書いたのが始まりですね。それをKADOKAWAの方に読んでいただいて、「面白いから本にしてみませんか」というお話をいただいてから、全部構築し直したのが一作目(『都会のラクダ』)ですね。
——お互いの小説を読まれていかがでしたか?

渋谷:すごく面白いなと思いました。バンドマンの生態的なことって、おそらくみなさん知らないことがすごくたくさんあると思うんですが、バンドというものがどういうものなのか、内部がどうなっているのか、そういうものがつぶさに書かれていて。僕からしたら「そうそうそう」って思うようなことも、たぶん知らない方が読んだら「こんなことあるんだ」ってなるんじゃないかな。それと、吃音症を僕も不勉強でなかなか把握できていなかったんですが、この本を通して「こういうことがあるんだな」とか「こういうことで苦しんでたり悔しい思いをしたりする人がたくさんいるんだな」っていうのを、初めて知ることができました。バンドマンとしては「そうそう、こういうこと、あるんだよな」と思ったし、吃音症に関しては知らないことをたくさん知ることができた。二軸で興味を持って読める本だなと思いました。
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タナカ:渋谷さんのバンドだとギターの柳くん(柳沢亮太)が言葉を書いてるんですけど、ぶーやん(渋谷の愛称)のソロのライヴに行ったこともあるし、彼に言葉がないかというと、そんなことはなくて。ぶーやんの言葉があって、でもそれはたぶんBEAVERで鳴らす言葉ではないのかなとか勝手に思ってたんですよね。いざ活字を読んだ時に、めちゃくちゃ親近感を抱きました。ちゃんとめんどくさい人で(笑)。
渋谷:あはは!
タナカ:同じように僕もちゃんとひねくれてる人で。僕はひねくれてる人のほうを愛おしく思うタイプなので、自分を見てるようやし、「自分もそうであっていいんや」って希望を抱いて生きられる。出来事をそのまま書くんじゃなくて、わざと回りくどく書いたり、めんどくさく書いたりするところもわかるし、斜に構えているところもわかる。LEGOとBEAVERはちょっと違うけど、どちらも普通のバンドマンでは経験できないドラマを経験したバンドだと思うので、シンパシーを勝手に抱いちゃいました。
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——驚いたのは、バンドマン自らが書いた小説として、タナカさんも渋谷さんも300ページ越えと、どちらも長いんですよね。
タナカ:初めは小説をすごく恐れてたんですよ。作詞とコラムしか書いたことがなかったんで、「そんな文字数、書けるわけがない」と思って挑んで、「膨らまさないと、自分らしい表現をしないと」って思いすぎてたら、膨らんでたっていう。思いが膨れるというよりは、小説というものにちゃんと向き合う時に失礼のないように、素人なりに恐れてそうなりました。いざ書き切ったら「このままじゃ『ハリー・ポッター』並のページ数になるから削れ」って言われて(笑)。
渋谷:僕はそもそも「よし書くぞ」と思って始めたものではなかったので、身構えるというのはあまりなかったですね。限りなく内々のコンテンツだと思ってたし、自分たちのバンドに興味を持ってくださった方が読んだ時に、「こういうことがあったんだね」ってわかるきっかけになればいいなってノリで始めたので、ハードルは低かったかもしれないです。自分たちにあったいろんな出来事をどんどん一個ずつ書いていったらそうなったし、「削ってね」って言われた部分を大幅に削ったりもしてるんで、もっと赤裸々に書きたかった部分もあったんですけど(笑)。
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——『陽と月』で、小説と歌詞をリンクさせていくアイデアはどこから出てきたんですか?

タナカ:そういうコラムを書いていたんですよ。歌詞では書けなかったものや、その行間にある物語を膨らましたら面白いんじゃないかと思って始めたので、そこから持ってきているものもあります。あと、陽と月の物語だけど、どうやったってLEGOにリンクしちゃう部分もあるので、その時にリリースした歌詞に勝てるわけないと思ったんです。自分の歌詞がいいと思ってるからリリースしてるわけで。だから節々に入れたかったし、LEGOに還元したかったっていうのもあります。好きなことを個人でやらせてもらってるんで、LEGOに少しでも還元できたらいいなと。
渋谷:歩んできたものが一個の歌詞として帰結するって、すごく面白いスタイルだなと思いました。「一曲一曲こういう経緯があってこの曲ができた」っていう裏側まではっきり見られるようで、すごく面白いなって思いましたし、新鮮ですよね。「ここまで」という限りがある歌詞に落とし込んできたものの背景をしっかりと書いていて、過程と完成した歌詞の繰り返しで物語が紡がれていくのはすごく面白いなって思いました。
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——今後も小説は書き続けていきたいですか?
渋谷:書くことはすごく楽しいし、好きなことなので、需要とか考えずにやりたいなって思いますね。音楽の魅力に気づいた時のワクワクする感覚と似てたし、「誰かが求めてるからじゃなく、自分が好きだからやりたい」って思えているので、やれるならやりたいなと思ってます。
タナカ:歌詞にも小説にも起承転結があって、小説の最後を書けた瞬間に、ほんま作詞と同じ「気持ちいい」っていう感覚があったんです。ただ、2作目、3作目って書けるような器用な作家じゃないと今回で自覚しました。でも、文字を書くこと自体はどうせやめないので、それが小説なのか、コラムなのか、歌詞なのかってだけだと今のところ思ってます。
【プロフィール】
・渋谷龍太
1987年5月27日生まれ。ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2005年にバンド結成、2009年メジャーデビュー。2011年レーベルを離れインディーズで活動を開始し、年間100本のライブ活動をスタート。大型フェスにも参加し2018年には日本武道館単独公演をソールドアウトさせる。結成15周年を迎えた2020年4月にメジャー再契約し、結成20周年となった2025年にはZOZOマリンスタジアムにてワンマンライヴを開催、2日間でおよそ6万人を動員。2026年には東京ドームと京セラドーム大阪でそれぞれ2日間にわたる単独公演が控えている。
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X:https://x.com/gyakutarou
Instagram:https://www.instagram.com/gyakutarou/
・タナカヒロキ
1984年10月25日生まれ。2006年結成のロックバンド・LEGO BIG MORLのギタリスト。エモーショナルなサウンドで人気を集める3人組バンドで、主に作詞を担当。繊細かつ鮮烈な歌詞で聴く者の心を魅了している。
自身も吃音者であり、吃音をテーマにしたメディア『KITSU』を運営。
『陽と月』が初著書。
X:https://x.com/tanakawakame
Instagram:https://www.instagram.com/hiroki2133/
KITSU:https://kitsu.jp/
【書籍情報】
・都会のラクダ(著:渋谷龍太)
SUPER BEAVERボーカル渋谷龍太の処女作!
バンド結成から現在までを描いた自伝的小説。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322105000866/
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・陽と月(著:タナカヒロキ)
吃音症のバンドマンが描く、実話をもとにした音楽小説
“才能がない者のためにバンドがあって欲しい。
上手く言葉が出ない者のために歌があって欲しい。
そのどちらもロックが昇華して欲しい。”
吃音の作詞家が、最愛の親友へ贈る、最初で最後のラブレター
バンドで成功することを目指し、夢と現実の狭間を生きる、吃音症のバンドマン・月。太陽のような性格で天然だが、音楽の才能に溢れている親友のバンドマン・陽。
対照的な2人のバンドは、当初はどちらも華々しくデビューした。
しかし両者はその後、まったく違う道を歩んでいき……
夢は叶わなかったら不幸なのか。売れたら本当に幸せなのか。そんな想いの中で揺れ動きながらバンドマンとして進んだ先に2人が見たものとは。
吃音症でもある「LEGO BIG MORL」のギタリスト・タナカヒロキが描く、圧倒的青春小説。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322506000207/

▼monogatary.com公式連載
https://monogatary.com/story/530790
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