
『ピクチャーブライド ~海を渡って恋となれ~』(澤島ヨウ/KADOKAWA)は、20世紀初頭のアメリカを舞台に、写真一枚だけを頼りに海を渡った「写真花嫁」たちの人生を描く歴史ロマンスである。かつて実際に存在した「移民婚」を題材にしながら、時代に翻弄される女性の生き方と、結婚から始まる愛情のかたちをみずみずしく描き出した注目作だ。
主人公・千鶴は、日本で教師として働く24歳の女性。自由で平等な社会、先進的な思想、そして自分を尊重してくれる理想の伴侶との新生活を夢見て、遠くサンフランシスコへと旅立つ。しかし、現地で彼女を待っていた夫・義昭は、写真の印象とはまるで異なる人物だった。期待と現実の落差、文化の違いや人種差別、そして簡単には帰れない異国の土地。千鶴の新婚生活は、甘い夢とは程遠いところから始まる。
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互いをよく知らぬまま夫婦となった千鶴と義昭は、反発し、すれ違いながらも、少しずつ相手の本当の姿を知っていく。恋愛の末に結婚する現代とはまったく別の結婚観が存在した時代だからこそ、ふたりの感情が育ち、思い合っていく過程がいっそう胸に迫る。愛は恋とは違い、一瞬のときめきだけではなく、時間をかけて育てていくものなのだと教えてくれる。
そして、女性の自立や尊厳というテーマの描き方も印象的だ。千鶴はただ受け身の花嫁ではない。時代の制約の中でも、自分の意思で考え、言葉を選び、人生を切り開こうとする。その姿は100年以上前の物語でありながら、今を生きる現代人の目にも鮮やかに映るだろう。異国で懸命に生きた女性たちに敬意を表するまなざしが本作に息づいている。
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結婚をテーマにしながら千鶴と義昭のような「歴史の開拓者」に触れることができる本作は、あまり語られることのない先達たちのことを学べる貴重な読書体験となるだろう。
文=時任邪武郎
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