
『猫に白鳥、蛍に小判』(ヨドカワ/KADOKAWA)は、学校を舞台に、生徒たちそれぞれの異なる「好き」が交錯していく姿を描いた青春コミックである。恋愛、憧れ、執着、友情……ひとことで片づけられない感情が入り混じり、登場人物たちの心を鮮やかに揺らしていく。みずみずしい空気感とテンポの良い会話劇が魅力の作品だ。
美術教師・波瀬ホタルは、ひとりの女子生徒に頭を抱えていた。その生徒・猫目ユナは、非常勤講師・白鳥アコに一目惚れし、授業そっちのけで追いかけ回しているからだ。しかし、当の白鳥もまたどこかつかみどころがなく、ただの「憧れの先生」では終わらない気配をまとっている。恋に一直線なユナと、そんな彼女に振り回される大人たち。その関係にはどこか微笑ましさがある。
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ユナのまっすぐすぎる感情は暴走気味で笑いを誘いながらも、実は彼女なりの孤独や不器用さを感じさせるものだ。一方で、ホタルと白鳥の大人側にもそれぞれに事情や感情の揺れがあり、誰かひとりの恋だけではなく、複数の人生が同時進行で描かれていく群像劇としての面白さがある。本作はそんな学園ラブコメに収まらないところに大きな魅力がある。
そして作品全体を包む軽やかなリズムも心地よい。会話の間や視線の動き、ちょっとした沈黙の「間」など、登場人物たちの距離が自然と伝わってくるのだ。にぎやかなやり取りの裏で、言葉にならない感情がじわりと滲む瞬間も多く、読み手は笑いながらも、いつの間にか心を掴まれているはずだ。
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タイトルにある「猫」「白鳥」「蛍」は、登場人物たちのキャラクターを思わせる。奔放さ、気高さ、淡く揺れる光。異なる性質を持つ者たちが出会うことで、物語は思いがけない色彩を帯びていく。そして、読み手が思い浮かべるのは、「好き」という感情の美しさとやっかいさだろう。誰かを好きになる気持ちは、ときに自分を変え、ときに人を振り回してしまう。にぎやかで愛らしく、それでいて少し切ない。そんな青春のまぶしさに、目を細めてしまうのだ。
文=馬風亭ゑりん
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