
出産経験のない女性のもとに、ある日突然「あなたの子どもです」と少女が訪ねてくる。少女は、女性の“卵子提供”によって生まれた子どもだった——。『egg わたし、あなたの子どもです。』(鳥野しの/KADOKAWA)は、他人の卵子や精子を利用することで誰でも子どもをつくることができる制度“egg”がある架空の社会の物語。
本作では、ドナー(卵子提供者)とレシピエント(卵子提供によって生まれた子ども)の人生の交わりを描く。二者は求め合うことも求め合わないこともあるが、その関係は複雑だ。親になる資格とは? セクシュアリティとは? そして人間同士のつながりとは? 人と人との在り方について改めて考えさせられる本作に込めた想いを、著者の鳥野しのさんに聞いた。
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——下巻ではパンセクシュアル(※)かつデミセクシュアル(※)など、セクシュアリティについて触れる場面が多く登場します。まだまだ知られていない性の多様性についてこのように表現された想いを教えてください。
鳥野しのさん(以下、鳥野):今まで描いた作品ではあまり登場人物の性指向や性自認には言及してこなかったのですが、あえて言わないだけで世の中にはいろいろな人がいるんですよね。
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現実では口に出しても出さなくてもその人は実在しますが、フィクションだとはっきりと表明されないキャラクターは、自動的に「異性愛者」「男性」「女性」ということになってしまいがちです。5話を遺産相続にまつわる婚姻のエピソードにしようと考えたときに、それをキャラクターに表明してもらおうと思いました。
——卵子提供のお話を描く上で、セクシュアリティの話は避けては通れない話題なのかもしれません。本作は自立した女性の卵子提供といったテーマから始まりますが、後半に向けてさらに新たな課題も登場し、物語に深みが増していきますね。
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鳥野:「egg制度の終了」という全体のラストが固まった段階で、その前の数回は、ドナー(卵子提供者)とレシピエント(卵子提供で生まれた子)の再会や、個人情報の流出など、終幕に向かっていく大筋を作りました。その上で「トランス男性(※)の卵子提供」「ドナーとレシピエント間の臓器提供」などを描いておくべきでは、とも思い、それらを可能な限り織り交ぜるようにしました。
※パンセクシュアル…相手の性別やジェンダーに関係なく、すべての性別の人を恋愛・性愛の対象とする性的指向のこと
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※デミセクシュアル…精神的な深いつながりがある相手や信頼できる相手にだけ、性的欲求を抱く性的指向のこと
※トランス男性…出生時に割り当てられた性別は女性だが、性自認が男性である人
取材・文=吉田あき
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