
もし、異世界に転生したとしたら、あなたならどうするだろうか。せっかく転生したのだからと、勇者を目指す、という人もいるかもしれない。けれども、そんな状況に置かれたなら、まず考えねばならないのは、どうやって生き延びるかということ。自分にできること、向いていることを見極め、堅実に生きる道を探すという選択肢も、きっとあるはずだ。
その「生き延びること」に真正面から向き合う少女を描くのが、『異世界に行ったので手に職を持って生き延びます』(林ふみの:漫画、白露鶺鴒:原作、LINO:キャラクター原案/白泉社)。転生モノの中でも異彩を放つ、未だかつてない異世界成長譚だ。
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異世界なのに、現実世界と変わらない⁉ だから手に職をつけたい!

「お前たちを異世界に転移させる。どのように転移するかを自分で選ぶといい」
物語は、真っ白な世界の中、そんな言葉が聞こえてくる場面から始まる。だが、主人公には、前世の記憶はない。周りの、同じような境遇の人たちが「俺は勇者になる!」「魔法使いになっちゃお!」と沸き立つ姿が見えるが、彼女には何をどうしていいのか分からない。けれども、戦いの力が必要であること、危機的な状況を察知する力があったほうがいいこと、そして、「手に職をつけたい」という思いから、それらがかなえられそうなスキルを選び、所持金を多く残したまま、彼女はクレインという名前で異世界に降り立つ。だが、そこは転移者を「異邦人」と呼び、忌み嫌う、アウェイな世界。また、身分証を手に入れるために、冒険者ギルドに所属しようとするも、戦闘経験がないと使い物にならないため、技能実習を受ける必要があるらしいことが分かる。そこでクレインは、冒険者としての特訓に励みつつ、薬の調合など、危険が少なそうな薬師も目指そうとするのだが……。
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転生モノといえば、主人公がいつの間にかチート能力を獲得し、その能力を武器に無双していくというイメージがある。だが、この物語は違う。主人公が自ら熟考してスキルを選ぶという物語の冒頭の展開からして意外だし、転生先で目の当たりにすることになるのは、あまりにも厳しい現実だ。金がなければ生きられず、能力や仕事がなければ立場も得られない。この世界には、現実世界と変わらない、そんな世知辛さがあるのだ。
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いまだかつてない「地に足がついた少女」の異世界成長譚に目が離せない!
だが、クレインは決してめげない。こんなにも地に足がついた冒険者がいただろうか。「とにかく生き延びたい」という思いを胸に、理知的なクレインは出会う人々や、目の前で巻き起こる出来事と実直に向き合っていく。異世界の人たちは、最初は「異邦人」のクレインを警戒していたはずなのに、その真っ直ぐさに触れるにつれ、次第に表情が和らいでいく。そして、彼女の周囲には信用できる人間たちが集まってくる。過酷な状況の中で、少しずつ自分の居場所を作っていく姿に、私たちは思わず胸を打たれる。

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冒険モノとして読み始めたら、もしかしたら、少し地味に思えるかもしれない。だが、成長譚としてはこれほど魅力的な作品はあるまい。クレインの前世に何があったのか。なぜ大量転移が行われたのか。実直な少女が、この厳しい世界をどうサバイブしていくのか、先の展開も気になって仕方がない。どこまでも真っ直ぐな姿を追ううちに、きっとあなたも、その姿から目が離せなくなってしまうはず。さぁ、あなたも、クレインとともに、冒険の旅に出かけよう!
文=アサトーミナミ
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