
SNSを中心に、若い世代の自己表現の手段としても熱い注目を集めている短歌。日常生活の中でふとこぼれ落ちてしまうような感覚や情景を、わずかな言葉で掬い上げる。それが短歌の魅力のひとつだろう。『お守り短歌アンソロジー わかれる』は現代の歌壇を牽引する人気歌人10名が「わかれ」をテーマに短歌を詠み下ろす、贅沢なアンソロジーである。
参加歌人は、青松輝、上坂あゆ美、大森静佳、岡野大嗣、木下龍也、笹公人、志賀玲太、谷川電話、手塚美楽、初谷むい。実力・人気ともに申し分ない豪華な顔ぶれだ。10名それぞれ作風に異なる魅力があり、この1冊で様々なテイストの短歌を楽しむことができる。
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「わかれ」というテーマの向き合い方にも歌人の個性が色濃く滲む。友人とのわかれ、過去の自分とのわかれ、夢とのわかれ、あるいは共に過ごしたカメとのわかれ……。読者自身にも身に覚えのあるような、もしくは、まだ経験したことはないけれど、いつか訪れるかもしれないいくつもの「わかれ」。書き下ろし10首連作という形式で切り取られたそれぞれの情景は、まさに十人十色だ。「わかれ」という、たった3文字のテーマから、これほど多様な解釈が生まれることに、題詠の面白さを改めて実感させられる。
また、本書の最大の特徴は、歌人自身による「解題」が収録されている点にある。歌人それぞれが「わかれ」というテーマにどのように向き合ったのか。歌人自らの解説を読んだ後に短歌を再読すると、また異なる魅力が見えてくる。解題を手がかりにして短歌を読むこともできるため、「短歌は難しそう」という感覚を抱く人や、短歌を初めて読む人の最初の1冊にも適しているだろう。これを初めの1冊にして、心に留まった歌人の個人歌集へと手を伸ばす。そんな読書の広がりも期待できる。
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さらに、イラストレーター・みつきさなぎの作品が書籍の各所に掲載されているのも、ページを捲るのが楽しくなる仕掛けとなっている。みつきさなぎのやわらかい線が描く幻想的な情景は、収録されている短歌と同様に、優しい魅力に満ちており、静かであたたかい読書体験へと導いてくれる。カバーに使用されている紙にはパール調の淡い光沢があり、みつきさなぎのイラストと相まって、本棚の目立つところに置いておきたくなるような「特別さ」がある。ぜひ、紙の本として、その手触りを確かめてみてほしい。
引用----
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字が抱いてページが抱いて一冊が抱いているから いいよ忘れて
(木下龍也「チープカシオ」より)
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生きていく限り、私たちは「わかれ」と無縁ではいられない。長く生きれば生きるほど、その数は静かに積み重なっていく。そんな逃れられない「わかれ」を優しく抱えて見つめる本書は、今までの「わかれ」にも、そしてこれから訪れる「わかれ」にもそっと寄り添ってくれる、まさに「お守り」のような一冊である。
文=せぼねダイナソー
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