
テレビ東京入社4年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。
こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて...。
私は昔から、幸せを味わうことが下手である。
というか、幸せを感じることがひどく怖い。
幸福感が募れば募るほど、「人生の中で、今が幸せのピークなのかもしれない」と先行きが不安になる。これほどまでに今が幸せなら、この先の人生は緩やかな下降でしかないように思えて、急速に精神の原動力が失われていくのだ。
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先日放送スタート、私が監督・プロデューサーを務めた『アリフォルニア』(TVerで全4話先行配信中)。この番組を通じて今、幸せが極まりすぎてしまった。だから、私は猛烈に恐れている。普通か不幸な日々へ落ちてゆく未来を恐れている。
番組を制作している間、私は狂熱の中にいた。過集中に没入し、ただがむしゃらに忙殺された。寝ることを忘れ、食べることを忘れ、社内の重要な面談を飛ばした。私は破綻していた。幸せを感じる余裕などなかった。しかし、苛烈な制作期間を終え、放送を見届けた今、ふと立ち止まって冷静に自分を眺めてみる。私はかつてないほどの多幸感で満たされていた。
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振り返れば、高校生の頃から憧れ続けた有田哲平さんに自分の番組企画を選んでいただけたこと(第10回参照)、その企画が局内で通って実現が決まったこと、それが全ての始まりだった。憧れの人と仕事ができるなんて、なかなかない。本格シチュエーションコメディが地上波で放送されるのは、多分およそ4年振りだ。
そこに、鈴木もぐらさん(空気階段)、兎さん(ロングコートダディ)、深澤辰哉さん(Snow Man)、にご出演を決めていただけたことも、至上の喜びだった。空気階段さん、ロングコートダディさんは単独公演を観てきた大好きなコンビ。どちらもキングオブコントを制覇した、今のコント界を背負って立つ方々である。
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深澤さんのキャスティングはこの番組の方向性を決定づけた。『アリフォルニア』は、「お笑い」という枠組みに縛られない突き抜けたファンタジーを志した番組。お笑いファンだけでなく、日頃お笑いを観ない方たちにも届けたい。だから、芸人以外もメンバーに入れたいと考えていた。
アリツグという役は、深澤さんにしか務まらなかった。いわば、スター性の蛇口を持っている、そんな不思議な方だと感じているからだ。主役を引き立てることも、自らが主役として圧倒的に輝くこともできる。己のスター性の濃度を場面に応じて自由自在にコントロールしているように映る。主人公のアリタをサポートする役でありながら、ダブル主演的な側面もある今回の役柄にぴったりだった。そして、アリツグはコントの要となる裏回し役でもある。グループ内や番組でMCを務めることの多い深澤さんが得意とされるポジションである。
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深澤さんならこの突飛な企画を面白がってくれるのではないか、引き受けていただけるのではないか、という根拠のない直感めいた確信もあった。ご出演が決まる前から、脚本制作は当て書きして進めていた。番組を観ていただいた方の中には、アリツグのキャラ設定やセリフ回しが素の深澤さんっぽいと感じられた方もいるだろう。放送には一切登場しないが、貯金がないというご本人のエピソードを反映した裏設定まである。
最初の打ち合わせで深澤さんはおっしゃった。
「この脚本、僕が完璧に覚えてこないとぐちゃぐちゃになりますよね。他の人のセリフも全部入れるくらいの気持ちでやります」
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ご出演いただきたかった方に実際に出ていただき、限りなく真面目に丁寧に向き合っていただいた。その歓びに私は今、溢れている。
収録を終えると、有田さんをはじめ、出演者の皆さまが口々に言ってくださった。
「脚本が面白かった」

本作の脚本担当はワクサカソウヘイさん、洛田二十日さん、平山犬さん(転転飯店)である。
普段は、文芸や舞台を中心に活躍されている方々だ。
テレビの文脈にとらわれず、とにかく面白い方を集めよう。テレビ仕様に整える作業は私が担えばよいから、あらゆる表現の領域を見渡して、面白い方を集めよう。そう考えて、声をかけたメンバーである。
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そんなお三方の脚本を出演者の皆さまに絶賛していただいたことは、この上なく嬉しい。
私が入社して3年間で築き上げたチームを認めてもらえたのである。
これまでの足跡は間違っていなかったのだ。
ああ、私の幸せは今、臨界点に達している。
十分である、いや十二分に幸せであった。これ以上はないほどの僥倖である。
さあ、これからの普通と不幸にまみれた日常へと備えよう。
果てしない充足を知ってしまったから、もう退屈な平穏では満足できない体になってしまった。この先にあるのは、かつての普通と不幸さえも愛おしく思えるほどの、徹底した空虚だろう。
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それならばいっそ、アリになりたい。
私には、アリ的な生き方が不足しているのかもしれない。
彼女たちは先行きなど見ようとしない。個の幸せがどうだとか、人生のピークがいつだとか、そんな自意識のぬかるみにはまることはない。日常に彩りなど求めず、ただ女王のために、群れのために、フェロモンの導きに従って無機質に、粛々と運命を全うする。そこには、感情の起伏による絶望も、下降線への恐怖もない。
アリの番組をやっていながら、まったく灯台下暗しもいいところである。
アリ的虚無に生きるべきなのだ。
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ではでは、私のこれからのアリ生を応援してほしい。
『アリフォルニア』を観てほしい。
『アリフォルニア』放送情報
放送日時:
第1話:3月30日(月) 深夜0:30-1:00
第2話:4月9日(木) 深夜3:05-3:35
第3話:4月16日(木) 深夜3:05-3:35
第4話:4月23日(木) 深夜3:05-3:35
※第1話放送後、TVerにて全4話先行配信
放送局:テレビ東京 ほか
牧島俊介●テレビ東京入社3年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』など。
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