
漫画家・叶輝(かのうあきら)さんと、うつ病により休職を繰り返していた朝待夜駆(あさまちよかけ)さん。二人のもとにたびたび足を運んでいた地域猫はある日、病気で瀕死の子猫を連れてくる。「朔太郎」と名付けられた子猫は、深刻な病気を患っていた。二人は朔太郎に寄り添いながら、日々を重ねていく……。
エッセイ漫画『スローステップ朔太郎』(叶輝:漫画、朝待夜駆:脚本/KADOKAWA)は、命と希望のリレーを描いた作品だ。2025年春に上下巻で発売された本作は、仕事の悩み、病気との向き合い方、経済的な不安など、多様な困難を抱える読者から共感を呼んでいる。
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それぞれが抱える困難の中で見えてきた「支え合うこと」の新しい形とは? 実話をもとに、ユーモアと愛情で表現した本作の制作背景を、作画担当の叶輝さんと、脚本を手がけた朝待夜駆さんに伺った。
――朔太郎と過ごした中で、印象に残っているエピソードを教えてください。
朝待夜駆さん(以下、朝待):家に入れたばかりのときだったと思います。痩せっぽちで怪我だらけなのに、私の足に向かって頭突きをして一生懸命甘えてくるんですよね。まだ朔太郎は世界を信じているんだ、と。こんなにボロボロにされて、足が変形するような怪我を負わされて、寒くて痛くてひもじくて、それだけの世界だったのに……。世界に裏切られてきた私の心にこみ上げるものがありました。
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――朔太郎が病院で暴れず、おとなしくしているシーンが印象的です。お二人はその姿をどのように見られていたのでしょうか?
叶輝さん(以下、叶):たしかに、怪我の治療をしているときも痛かったはずなのに、じっと耐えていましたね。私なりの解釈では、もっと痛い経験をしていたのかもしれないなと。
朝待:人間に置き換えると、痛みを受容する「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」(不安や苦痛を受け入れ、人生を豊かにする行動をとることを目指す認知行動療法の一つ)みたいなことがあるのかな。「痛い!」とひたすら拒絶するのではなく、「私は痛いんだな」と受け入れることで対処していくような……。
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叶:動物の本能でいうならば、「学習性無力感」かもしれないよね。痛くて嫌なことを数多く経験していくと、「抵抗することが無駄だ」と、自発的な行動をしなくなるという。
朝待:ああ、それかもしれないね。
叶:ね。動物に共通している感覚として、ありそうだよね。
取材・文=松本紋芽
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