
サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第34回はやまぎわ回。
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第34回(やまぎわ) 「今の芸人界、イケメンの方が得に決まっています」
断言しましょう。
今の芸人界、イケメンの方が得に決まっています。
ブサイクが得なことなんて何もありません。
芸人と顔貌は切っても切り離せない関係にあります。芸人は自ずから舞台の上に立ち、生まれ持った取り換え不可能な顔面を衆目の下に晒し続けます。
「顔を売る」という言葉があるように、芸人は自らの顔に「面白い」というイメージを結びつけるのにご執心です。
お客さまの「面白かった!」という感想ポストに載っているのも、その笑い声ではなく芸人の顔です。
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ブサイク側から言わせてもらうと(写真を見ていただいたら分かるように、もちろん僕はブサイク芸人チーム所属です)、少なくとも今の若手芸人界隈は絶対にイケメンの方が得をしていると感じます。
2つの側面から理由を解説します。
まずは「なぜイケメンの方が得なのか」。それは短期的に金を生み出す仕組みが多様にあるからです。
近年芸人のビジュ仕事が広く耳目を集めています。例えば、ひつじねいり・細田さんの「RE:IWAROMAN」、カナメストーンさんの「OWARAI NYLON」…。
芸人のビジュをあしらったアクスタ、ランダムキーホルダーはマネタイズの常套手段ですし、われわれが出演するような地下ライブでさえ芸人のチェキが販売されています。
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そしてそのグッズは基本的にイケメン・瑞々しき肉体を持つ若い芸人の方がよく売れています。(一般的な傾向として)
イケメンであればあるほど、写真を撮るだけでさまざまな方法でお金を生み出せる。そらコスパもいいですわな。資本主義的にそちらへ流れるのも当然です。
問題は売る側が、ルックス以外からお金を産む想像力をあまり持ち合わせられていないことでしょう。
もう1つが「なぜブサイクが得ではないか」です。
僕らブサイクが「イケメンのほうが得やんけ」と言うと、「いやいや、オイシイやん笑」「おもろくてその顔面、無敵ですやん笑」みたいなことをにへら顔で言ってくるわけですね。もうね、アホかと。バカかと。
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ブサイクお笑い、マジで流行ってません。
世の中的にモラルが高まっていることもあり、ブサイクいじりは避けようという風潮がすっかり浸透しました。「よしもと男前ブサイクランキング」も10年前に終了しています。
ただ、イケメンのほうが注目を集められることは変わっていません。結果「ブサイクはそもそも注目されない」という状態だけが残りました。むしろシャレになってないって。
「芸人はブサイクをもっといじれ!!」ということでもありません。おそらくブサイクがすべからく傷ついたうえにスベって終了です。
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以上が結局イケメンが得やん、と考える理由です。でもやっぱりイケメンはこう言うわけですね。(僕たちブサイクはイケメンの発言を注視し、揚げ足を取る隙を常に探している)
「俺たちはお笑いがやりたくてお笑いを始めたのであって、決してチヤホヤされたいわけじゃない」「ワーキャーではなくコアなお笑いファンに注目してほしい」
うん。それはええんやけど、じゃあまずはその気取った自撮りをSNSにアップするのをやめよか?さっさとその性欲をしまって、Xのアイコンを「自分の苗字の漢字」にしてもらってもいいですか?(会社のTeamsのように)
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同情の余地があるとすれば、芸人は「自分が何をしたいか」より「観客がどう見たいか」に囚われ続けなければならないという側面はあるでしょう。
芸人がファンの皆さまからどう見られるかというのはコントロールできません。
売れた芸人がメロがられるのに戸惑いを表明する事案が多く発生していますが、たとえ嫌であろうがそのメロがりの洪水を止めることは決してできません。
それにイケメンが体当たり企画でボロボロにされていたらかえって引かれてしまうだろうし、ブサイク8人が超センス系のコントをやってもどこか滑稽な感じが出てしまうでしょう。
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われら芸人は生まれたときからその顔面でできるお笑いの幅に制限がかけられているのです。
見た目や印象が先行し、やりたいことと求められることにズレが生まれる。売れれば売れるほどそのギャップは大きくなるでしょう。
ただ一方で、「こう見られている」「これが求められている」ということを敏感に察知し、盛り上がる方に盛り上がる方に流れていくのも芸人の性です。
反応があることを知っているから芸人はメイド服を着、SNS上でBL売りをするのです。(僕のこの記事も究極のところポジショントークにすぎません)
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芸人は「今この場を盛り上げたい!」という気持ちと「これって俺のしたいことだっけ?」という気持ちの間で揺れています。(どちらを優先するかは主義による)
僕らにできることは、自分の面白いと思うことと他人から求められていることの折衷を見つけていくことしかないのです。そこにギャップがない人もいるでしょうし、そのポイントを見つけられた人から売れていくのだろうとも思います。

■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。
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無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao
無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin
無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane
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