※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。

アナウンサーの弘中綾香さんは、2023年11月に第1子となる娘を出産した。妊婦となった瞬間から、出産、育児をつぶさに語ったのが、エッセイ『たぶん、ターニングポイント』だ。「もともと自分の備忘録として書き留めていたものなんです。本にする際も、ほとんどそのまま手を加えず」と弘中さん。
印象的なのは、世間一般の理想的な母親像にとらわれない、素直な気持ちの吐露だ。例えば、妊娠がわかったときの感情は「マジか」。そこにドラマはなく、困惑と驚きが混じったものだった。
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「妊婦さんって、私自身、幸せの絶頂にいるイメージだったんです。心安らかにヒーリングミュージックを聴いて、ふわふわなソックスを履いて、みたいな(笑)。でも実際は全然違うぞ、と。こういう人もいるよ、というのを書き残したかったんですね」
ホルモンバランスの影響で、嬉しいだけではなく、イライラ、メソメソ。そんな感情の大きな揺れ動きは、弘中さんも初めての経験だったと言う。
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さらに弘中さんは、出産を終えたら新たなマラソンのスタート、と産後の壮絶な日々を綴っている。子どもの命が自分にかかっているプレッシャーで、身も心も削られた。弘中さんがそれを乗り越えられたのは、外部に支援を求めたことが大きい。産後ケア施設や、マッチングサイトを通したベビーシッターの利用など、出産を控えた方や育児中の方に、非常に役立つ情報である。
「言葉を選ばずに言うと、出産後1年は、夫よりもそういったプロの方や公的支援に助けられました」
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これは、社会全体にも通じる。
「日本は核家族で、育児は孤独になりがちです。すべて一人で抱えたり、パートナーや両親にしか頼れない方も多いでしょう。でも、もっと育児をアウトソーシングしてもいいと思うんです。家族を越えて、社会全体で助け合えるといいですよね」
弘中さんは、娘が0歳の4月に保育園に入れ仕事復帰した。これについても、孤独感と疎外感からの解放、「私」を取り戻すことの大切さを、率直に書いている。
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「もちろん人それぞれですが、私は母としてだけ生きるのはしんどくて。忸怩たる気持ちを抱えて育児に専念しても、子どもに負の感情が伝わってしまうかなと」
妊娠、出産、育児を通して弘中さん自身の意識も180度変わった。
「以前は、自分はどちらかというと助ける側だと思ってしまっていました。でも今回、初めて助けてもらう側を経験して、周りの人と社会に守られているんだと実感しました。それぞれができることをやって、誰かを助け、助けられる。そういう広い心を私も持ちたいと思いますし、そういう社会のシステムができあがっていくといいなと思います」
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本書にはもちろん、育児の喜びと娘への愛情も目一杯込められている。
「子どもは成長スピードが早くて感動します。人間ってすごいですよね。夫も今ではとても戦力になってくれています(笑)。この本は、女性だけでなく、幅広く男性にも読んでいただけたらいいですね」
取材・文:松井美緒 写真:干川 修
ひろなか・あやか●1991年、神奈川県生まれ。2013年、テレビ朝日入社。『ミュージックステーション』『激レアさんを連れてきた。』『1泊家族』など数多くの番組に出演。23年に第1子を出産。著書に『アンクールな人生』など。
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『たぶん、ターニングポイント』
弘中綾香
朝日新聞出版 1540円(税込)
2023年11月に第1子を出産した著者に訪れた“人生最大の試練”。妊娠・出産・育児のリアルを語る本音100%のエッセイ。妊娠中に感じた不安、産後の覚悟、おっぱい問題、孤独感など育児の壮絶な日々、復帰へのハードル……。ボロボロになりながらも、その先で出会ったのはまったく新しい世界だった。
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