
芸能事務所タイタン社長の太田光代さんの文藝春秋の連載が、『社長問題! 私のお笑い繁盛記』(太田光代/文藝春秋)として書籍化。爆笑問題の独立騒動から、社長として向き合ってきたトラブルなど、経営者としての経験を中心に、芸能界の新たな道を切り開いてきた30年を語る1冊だ。太田さんに、連載のきっかけや、経営や仕事において大切にしてきたことを聞いた。
経営知識ゼロで会社を立ち上げてすぐに「社長が天職」と確信
――文藝春秋で、社長としての人生や経営について語る連載を始めたきっかけを教えてください。
太田光代さん(以下、太田) たまたま、毎日新聞のエリート記者だった石戸諭さんという面白い方と知り合って、文藝春秋の編集の山下(覚)さんからも、石戸さんのインタビューで連載をやりませんか、というお話をいただいたんです。掲載先が文藝春秋というのもいいと思いました。週刊文春と文藝春秋の違いを伝えられたら面白いかなって、私なりに思ったんですよね。
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最初は連載は6回と決めていたんですけど、最終回あたりで河本(ウエストランド)の事件が起きて。河本のことは書かないといけないと、連載を11回に延ばして、それが今回、本にまとまりました。かなり加筆をしてボリュームも増えましたけど、読みやすくなっていると思いますね。
――爆笑問題が独立して太田社長がマネジメントをすることになって、早い段階で「自分は社長業に向いてる」と気付いたそうですが、その理由は何だったのでしょうか。
太田 もともと私はお嫁さんになろうと思っていたから、働くつもりはなかったんですね。就職もしたことがないし、会社の仕組みもわからないままタレントになりましたから、有限会社と株式会社の違いすら知らなくて。会社を作るにあたって、会社作りや経営のノウハウ本を一通り読んだんですけど、芸能界って仕入れや決まった値段の付け方があるわけじゃないし、どうやって経営したらいいのかわからない。でも、いざ会社を立ち上げたら、爆笑問題とこれをかけたら面白いんじゃないかとか、アイディアがたくさん浮かんできたんです。それで、会社を作って1週間で、「天職かもしれない」って太田に言ったら、笑われましたね。不安もありましたけど、本当に楽しかったんです。
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トラブル対応で大事にしたのは誠実に一生懸命伝えること
――大きな決断をする局面や、トラブルに関する判断を迫られる場面がたくさんあったと思います。経営者としても、ご自身の人生においても、決断をする上で大切にしてきたことは何ですか?
太田 やっぱり誠実さと、それから、一生懸命伝えることですね。もともとタレントとして表現する側だったから、伝えることは大事だなとずっと思っていて。トラブルでもそうじゃなくても、とにかく皆さんに伝えてきました。電話がかかってこなかったらこちらから電話するくらいのスタンスでやってきましたね。
私はもともと、聞かれたら話すタイプ。不妊治療のことも、当時はあまり話している人はいなかったから話題になりましたけど、聞かれたから話しただけなんですよね。不妊治療に関しては、いろいろな活動もしてきて、まだやりにくいことはあるけれど、少しはその分野に貢献できたかなと思っています。
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――誠実に説明をしていくというのは、業界で大きな存在になると忘れてしまうこともあるのかなと思うのですが、太田社長はなぜ、そのスタンスのままでいられるのでしょうか。
太田 性格でしょうね(笑)。私、言わないとダメで、間違えられるのがイヤだから、一生懸命話すんだと思います。話して伝わらないこともあるけど、話さないと伝わらないって考えてるんですよね、きっと。だから、太田(光)みたいに、何も言わなくてもわかるでしょっていう人は全然、意味がわからないんですよ(笑)。彼はアーティストらしく、言葉にすると嘘っぽくなるっていう感覚もあるんでしょうね。でも、こっちは言葉にすることで正しく伝えようとするタイプだから、性格がまったく違います(笑)。

――ご主人が言葉にしてくれないことにモヤモヤすることもありますか?
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太田 いっぱいありました。愛情表現がまったくない人ですから。本当に、私のことなんだと思ってんだろう?って思います(笑)。彼は私がいないと生きていけない人ですから、「私はあなたが生きていくために存在してるの?」って思っちゃいますよね。「ありがとう」とかもまったく言わないんですよ。
――ご主人はシャイだから、ということではないんですか?
太田 違うんですよ! いろんな方が「太田さんはシャイだから」って言うんですけど、そう思わせるのがあいつの手だぞ!って(笑)。だって、シャイな人があんなに舞台立ちます?
――確かに(笑)。
太田 シャイじゃありませんよ!
「なんでもかんでも謹慎」は世の中のために良くない
――タイタンのコンプライアンス研修のお話も面白かったです。芸人がコンプライアンスを守るなんてつまらないという意見もあると思いますが、太田社長は、コンプライアンスとは上手に付き合っていくものなのか、もしくは世の中は自然に変わっていくものなのか、どうとらえていらっしゃいますか?
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太田 今、変化が極端ですよね。コンプライアンスの意識に関しては、日本はちょっと遅れていたので、改善すると驚くような変化になるから、今はしょうがないとは思います。爆笑問題はあまり変わらないかもしれないけど、その変化についていくのは、芸人にとっては厳しい感じになっているとは思うんです。でも、トータルで見ると、やりすぎ感もありますよね。「それって外野が口出すことじゃないんじゃないの?」とか「そこまでしなくていいよね」っていうのは、さすがに皆さんも気付くでしょうから、いい形で収まっていくだろうとは思ってますね。
爆笑問題が独立した時も――あれは、本人たちがいけないんですよ。でも当時は、大きな事務所をやめたら芸能界では生きていけないと言われていたんです。あの時、そこはクリアしたいと思ってやってきて、今はそういうことに縛られずにやっていけるようになりましたよね。タイタンはその初期の例としてはわりと成功して、自分たちでもやっていけるっていうサンプルぐらいにはなったかもしれないです。でもそれって、人権的にも普通のことですよね。周りの忖度も含めて、世の中としても、それはやっぱり良くないでしょうっていうことで、正しい方向に向かっていくんだと思います。それに、こういう時って新しいタイプの芸人さんが出てきやすくて。いろんなものをふまえた表現で突破する天才的な人が出てきて、「なるほど、ああやればいいのか」っていう道しるべにもなると思います。
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――普通に考えておかしいことが変わってきて、世の中の人もそれを受け入れていくということですね。
太田 芸能人が何か失敗をした時に過剰に反応して、なんでもかんでも謹慎させるっていうのも、世の中のためにならないと思うんです。もちろん、犯罪は別ですよ。犯罪は絶対にダメです。でも、こんなに日本に元気がない時に、働ける人を休ませてどうする?って思います。なんだったら、ちょっとダメなことした人は、もっと働かせたほうがいいですよね。
――働いて、信頼を回復すればいいということですよね。
太田 本当にそうですね。

中小企業は30年続いたら大成功。その先に進むには変化が必要
――インターネットやSNSでの炎上や中傷の問題にも対応されてきましたが、ネットやSNSとはどう向き合っていらっしゃいますか?
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太田 以前、私たち夫婦に対する「さすがにこれは放っておけない」っていう誹謗中傷があったんですね。人権侵害だし、それを目にして悲しむ人がいることを言われたから、その時は追いかけましたね。脅迫文まがいのものもありましたけど、そういうことを言うのは、未成年か、そこでしか強いことを言えない人たちなので、そこはしょうがないですね。でも皆さん知っておいてほしいのは、今、全部、開示請求ができるようになっていますから、身元はバレます。
でも、悪い人はインターネットに限らず、世の中にいっぱいいますから。その点、ネット上も悪い人ばかりじゃなくて、SNSを見ていても優しい人はたくさんいて。気遣ってライブの応援や手伝いをしてくださる方がいたり、災害時も、SNSで情報交換ができたり、救出につながったりもしますよね。それはSNSのいいところだなと思います。
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――書籍ではタイタンの後継者についての話題もありましたが、創業30年を超えたタイタンという会社が、この先20年後、30年後、どういう会社になってほしいと思いますか?
太田 中小企業って30年続いたら「おめでとう」だから、もう、ここで終わっていいはずなんですよ(笑)。でも、それを乗り越えて次のステップに進んでいくためには、同じことをやっていたらダメなので。大元は変えずに、時代に合わせて形を変えていかないと、続いていかないでしょうね。
――後継者の方に経営権を移行させた後に、太田社長がやりたいことは?
太田 旅行に行きたいです。仕事ではいろんな国には行きましたけど、旅行ではなくて仕事ですから。芸能界にいながらハワイにも行ったことない珍しい社長って、笑われるんですけどね(笑)。でもね、夫がまったく旅行に興味がないんです。ものを作ったり書いたりする人だから、行けば何か得られると思うんですけど、家が好きみたいで。私の家にも勝手に居ついたし、本当に、猫みたいな夫です(笑)。
取材・文=川辺美希 撮影=川口宗道
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