
シリーズ累計35万部超のコミックエッセイ「おうち性教育はじめます」シリーズ。シリーズ初の児童書となる最新刊『こどもせいきょういくはじめます』は、「子どもが自分で読めるマンガだから、親から性教育の話をするのに抵抗があっても安心」と話題になっている。著者のひとりであり、現在17歳と14歳の子を育てるフクチマミさんと、2024年度放送のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家で、5歳の子を育てる吉田恵里香さんの対談が実現! それぞれ性教育や人権というテーマで作品作りに取り組むお二人に、制作への向き合い方からエンタメを通してこれからの子どもたちへ伝えていきたいことを語っていただきました。
ジェンダーに関わる物語を紡ぐおふたりが、子どもとの会話で気にかけていることとは?
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フクチ:マイノリティといわれる人のことや、「自分と人とは違うんだよ」ということについて、吉田さんはお子さんとお話しされますか? うちは17歳と14歳の女の子なので、ドラマや漫画といったエンタメを通じて話すことが多いです。
吉田:うちの子は5歳ですが、絵本やアニメを通して会話をすることが多いです。色々なエンタメ作品を薦めますが、全く刺さらないものもありますし、一気にハマってくれるものもあります。少し前までは、アメリカの「Steven Universe」というアニメを気に入って観てくれていました。男性/女性の二分法だけで捉えないジェンダーの人物が出てきたり、女性同士の恋愛が描かれていたり、多様な性のあり方が観ているうちに自然と入ってくる。でも、無理やり押し付けても子どもは興味を持たないので、そこは工夫が必要ですね。
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フクチ:親が見てほしいものに、子どもが興味を示すとはかぎりませんよね。親子といえど別の人間ですから。そして子どもは子どもで、世の中の空気を素直に吸収します。家ではジェンダーバイアスを刷り込まないようにしていたのに、いつのまにか「男の子はピンクを着ないんだよ!」と言い出す、という話をよく聞きます。
吉田:ありますね。保育園とか習いごととか、子どもにも子どもの社会があります。親がコントロールしきれるものではない。強制は無意味なので、対話を続けるしかないというのを、私も日々感じています。
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フクチ:だからこそ家では、子どもの目に入りそうなところに、「そうではないんだよ」「男らしさ女らしさというのは、ただの決めつけだよ」というメッセージになりうるものを、さりげなく置いておきたいと思っています。
吉田:お友だちのあいだではこう言われてるけど、別のことを言っている絵本もあるんだよ、というものに、ちょっとずつでも触れさせていく。そのときはよくわからなくても、いつか大きな幹になるのかなと思っています。いま子どもがハマっているのが動物の本なんですけど、彼はそれでキツネが生後1年で親離れすると知ってショックを受けたようなんですよ。それで、「ずっとママと一緒にいたい!」と言ってくる。
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フクチ:吉田さんはどう答えるんですか?
吉田:第一声は「ママももちろんずっと一緒にいたいよ!」です。そこが子どもが欲している回答だというのはわかっているので。でもそこで終わらずに色々と会話をする中で「さっきも言ったけどもちろんママもずっと一緒にいたい。けど、これはそうしなきゃっていう約束って意味じゃないよ。あなたが大きくなってパートナーを見つけて出ていくならママはそれもうれしいし、ひとりで出ていってもいい。パートナーが男の人でも女の人でも、ママはハッピーだよ。パートナーがいても、ママと旅行に行ったり、ご飯食べたりできる。ずっと一緒というのは心と心という意味でもあるからね」という話をちょこちょここまめにしています。私、めんどくさい親なんですよ。でも子どもは言葉をそのまま受け取るので変な呪縛を生みたくないという気持ちがあります。
フクチ:親としても「ずっと一緒だよ~」と答えたほうが楽ですけど、吉田さんはそこにメッセージを込めるんですね。
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吉田:まだ幼いので全部は理解できないし、ずっと覚えてるってこともないと思うのですが、子どものどこかに残っていて、いつかピピピピッとつながるときが来ることを信じるしかないですね。
フクチ:いまのお子さんの年齢や想いを大事にしながらも、遠くに向かって投げておく、みたいな感じですね。性教育は、螺旋階段のようにして伝えるものだといわれます。1、2回言っただけで子どもが理解して自分のものにできるわけではないから、同じことを繰り返し伝える。その場をぐるぐる回るのではなく、子どもの成長に合わせて上に向かっていく……というイメージ。子どもは常に成長しているから、いろんなものが自分のなかで合わさって、いつか「あ、そういうことか」とつながるときが来るんですよね。
取材・文=三浦ゆえ 撮影=川しまゆうこ
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