
たった一度の人生をかけるほど、このゲームはおもしろい――。2025年7月2日(水)、第12回「ポプラ社小説新人賞」受賞作である『エヴァーグリーン・ゲーム』(石井仁蔵/ポプラ社)の文庫版がリリースされた。
同作は、世界有数の頭脳スポーツであるチェスに魅入られた若人たちの生き様と、盤上で繰り広げられる熱き戦いを描いた作品。「ポプラ社小説新人賞」の選考委員に満場一致で選出されているほか、小説家の宮内悠介氏は「鮮やかなストーリーテリング!」と評価し、同じく小説家の綾崎隼氏も「こんな物語と出会うために、自分は小説を読み続けるのだと思います」などと惜しみのない称賛を送っている。さらに芸能界からは、読書家で知られる俳優の南沢奈央が「完全に心を掴まれました。完敗です」とコメントしていた。
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そんな同作の物語は、チェスで人生を変えた4人の視点から展開される。難病のため小児病棟に入院している小学生の透、チェス部でプロを夢見るも、理想と現実の間で揺れ動く晴紀、母親と良好な関係を築けず思い悩む全盲の少女・冴理、少年院でチェスに出会い、生きる価値を見出した天涯孤独の青年・釣崎。それぞれがチェスと出会い人生を捧げる……そのプロセスが繊細かつドラマティックな文章で綴られていく。
やがて4人は、日本一のチェスプレイヤーを決める大会「チェスワングランプリ」で己のすべてをかけた戦いへ挑むことに。8×8マスの盤上で繰り広げられる戦いに魅せられた者たちの激突、その果てにはいったい何が待っているのだろうか――。
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海外に比べると日本におけるチェスの知名度は決して高くなく、ルールを知っている人もそう多くはないだろう。だが、予備知識がなくても気にせず読み進められるのが同作の魅力だ。また、チェスを知っている人ならば、より登場人物たちの感情に迫れるかもしれない。
ちなみに2023年に単行本がリリースされた際、読者からは「何かに夢中になり、没頭することの大切さ、素晴らしさを教えてもらった小説だった」「忘れていた青春を思い出しました」「チェスのルールを知らなくても夢中になれる破格の逸品でした」といった声が寄せられていた。
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なおタイトルの『エヴァーグリーン・ゲーム』は、チェスにおける不朽の名局を意味する言葉。いつまでも色褪せることのないチェスを巡る4人の物語、文庫化を機にチェックしてみてはいかがだろうか。
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