「小学生のメイク」は必要? 肌トラブルは? メイクアップアーティスト・イガリシノブが「メイクは子どものコミュニケーション力アップになる」と断言する理由《インタビュー》
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メイクアップアーティストのイガリシノブさんが、小学生のためのメイク本『わたしもまわりも笑顔になる 小学生のメイク本』(講談社)を刊行。初めてメイクにチャレンジする子どもや、子どもへのメイクの教え方に迷う大人のために、子どもに合ったメイクの基本を伝える1冊だ。幅広い世代に向けて心躍るメイクを提案し続けるイガリさんに、本書への思いや、親子でメイクを楽しむポイントについて聞いた。
How toだけではなくメイクで心が変わることを伝えたい
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――小学生向けのメイク本を作ろうと思ったきっかけはなんでしょうか?
イガリシノブさん(以下、イガリ) 今、コギャルブームの再来で、メイクをしたい小学生が増えていますけど、子どもにメイクについて聞かれても答えられない大人が多いと思うんです。私はいつも100年後の未来をイメージしてお仕事をしているんですけど、時代が変わる中で、家庭の中で受け継ぐものも変わっていくはず。そのひとつがメイクだし、教えられない方が多いのなら、私とうちの娘がそれを伝えるポジションを担うべきだと思ったんです。
でも、小学生向けのメイク本の企画って、出版社で「類書がない」ということでなかなか通らなかったんですね。でも、前例がないからこそ思いが強くなりましたね。企画から完成までに1年かかりましたけど、難航するたびに「絶対に私たちがやるべきだ」って、夢に見るぐらい思いました(笑)。
――メイクの基本的なマナーやスキンケアについても書かれていて、親と子の知らないことや不安にも対処してくれる本ですね。
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イガリ 子ども時代に自分の肌やメイクについて知っておかないと、将来、メイクに悩む子が出てきて、メイクに対するマインドが低い時代が来てしまうかもしれないと思うんです。それは避けたいし、メイクって心と通じる部分があるので、メイクのHow toだけじゃなくて、メイクで心をすっぴんにできるということも伝えたいと思いましたね。
今の時代の「かわいい」を形にする涙袋のメイクにこだわり
――イガリさんは動画でもキッズメイクを伝えていらっしゃいますが、今回、本として1冊にまとめようと思われたのはなぜだったのでしょうか?
イガリ 私、メイク本は、前に出した本で引退かなと思っていたんです。メイクを伝えるには動画がわかりやすいし、紙で読む情報は美容雑誌から得られますし。でも、小学生のメイク本は紙の本にする意味があると思いました。なぜかというと、写真も、現像したものをアルバムにして見るほうが心に残りますよね。私たち世代は紙の大切さを知っているし、親子で楽しむなら書籍がいいと思いましたね。
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――この本の作り方や見せ方で特に工夫したところはどこですか?
イガリ メイクのステップにはこだわりました。娘と一緒に料理本を見て、「基本はお米を研ぐことだよね」と話していた時に、「子どもたちがメイクするなら第一ステップって何かな?」と聞いたら、「リップをはみ出さないで塗ることじゃない?」って答えてくれて。確かに私もヘアメイクで、チークは難しいけど、リップって形が決まってるし色もわかりやすいから簡単だよって言ってるんですね。それをふまえて、第1ステップはリップに決めました。
次の第2ステップには、涙袋を入れたんです。今の時代じゃないタイミングでメイク本を作るとしたら、リップの次はチークになったと思います。でも、今の子どもたちがメイクに興味を持つのは、TikTokとかインスタでお姉さんたちを見て「かわいい」と思うから。そしてその「かわいい」のポイントがどこにあるのかというと、涙袋なんですね。涙袋メイクを紹介しなければ、メイクをしたいと思ったきっかけの「かわいい」を作れない。時代が変われば涙袋のメイクはいらなくなるかもしれないけど、今を生きる小学生たちが、「この時代はこれがトレンドだったよね」って言える本にしたかったんです。
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親と子がケンカしないでメイクを楽しむポイント
――子どものメイクに抵抗がある親もいると思うのですが、親子でメイクを楽しむためのコツは何だと思いますか?
イガリ この本の最初でメイクの準備について伝えているので、それを親子で読んでほしいのがまずひとつ。それと、私はメイクをきっかけに親子でケンカをしてほしくなくて(笑)。だから、困ったら私のせいにしてください。「メイク、ちゃんと落としなよ」じゃなくて、「イガリさんがメイクはちゃんと落とせって言ってるよ」って、私をうまく使ってもらって、親子でメイクを楽しんでほしいです。
――それはありがたいです! では、子どもと一緒にコスメを買いに行くとしたら、どういうお店や買い方がおすすめですか?
イガリ デパートに行ってデパコスでも、バラエティショップでバラコスを選んでもいいです。でも、今の子たちは、ロフトやハンズ、ROSEMARYのような、たくさんコスメが揃っているところが楽しいんじゃないかなと思います。ここまでたくさんのコスメが並んでる場所って、5年前にはなかったので。そういうお店に行って、文房具を買いがてら、コスメ選びも楽しんでくれたらいいと思いますね。
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――メイクに限らず親は「こっちのほうがいいよ」とどうしても上から目線で言ってしまいがちですが、そういう時も、子どもの好みを優先してあげるのがいいでしょうか?
イガリ とはいえ年の功もあるから、親の意見もそれはそれで大事にしてもらって(笑)。でも、子どもが好きなようにやればいいと思います。最初からうまくできる人なんていないし、大人だって情報がいっぱいあって迷いますしね。でも最低限、教えたいことはこの本に書いたので、それは伝えてあげてください。
子どもがメイクして出かけて帰ってきた時に、「今日、どうだった?」って聞いてあげるのもおすすめです。メイクってやって終わりではないので。メイクが落ちていたり、今日の服に合わなかったなんてこともあると思うんですね。質問してあげれば、今度は落ちないようにできるといいねとか、ピンクの服のときはこういうメイクがいいよねとか、次のアイデアにつながると思います。
メイクは子どものコミュニケーションのチャンスを広げるツール
――お子さんにメイクの楽しさを伝えることが、どんな将来や未来につながってほしいですか?
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イガリ 私たちが子どもたちに「楽しい」を受け渡すから、君たちも未来に「楽しい」を受け渡してねって思います。SNSでこうやって世界とつながれて、こんなにいろんなコスメが流行ってる時代が来るなんて、20年前は想像できなかったし、今はいいって言われているものが、そうではなくなる可能性もあると思うんですよ。でも、今いいものと、その楽しさを次の世代に受け渡していくことが、今を生きる人の宿命だと思うので。今の子どもたちが大人になった時に楽しく生きていて、その子たちもまた楽しいを受け渡していく、そういう世界になってほしいですね。
それに子どもたちには、メイクを通じてコミュニケーション力を身につけて、社会に負けないようになってほしいです。今、日本って、家族やコミュニティが小さい単位になってしまっているから、子どもたちには、もっと幅広いコミュニケーションを通じていろいろなものを吸収してほしい。メイクをすれば、友達と美容院や買い物に行って、あの子に会う時はこういうメイクしようとか、そういう楽しさが生まれるので。メイクって気軽にできるコミュニケーションのツールだから、メイクでコミュニケーションが増えることで、元気な社会になるといいなと思います。
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――社会に負けないようにというのは、生き抜く力を身につけるということですか?
イガリ メイクをしてマインドが上がることで、外に出られる子もいると思うんです。メイクで自分に自信がついて、自己肯定感がちょっとだけ上がれば一歩を踏み出せるし、それが他者肯定にもつながる。メイクを通じて、そういういい形ができてくるんじゃないかと思いますね。私自身はメイクなしで出かけることに抵抗はないんですけど、メイクしないで出かけて「あ、失敗したな」って思うこともあるので(笑)。ちょっとだけメイクをすると、街に馴染んで安心することって大人もありますよね。メイクをすれば、新しいことができるようになると思いますね。
コギャル文化の再来を大人も一緒に楽しんでほしい
――お子さんの肌が心配な親御さんも多いと思うんですけど、そういう方は、子どもの肌トラブルが出たらすぐにケアをするという前提を持っておけば良いでしょうか?
イガリ 私はヘアメイクが専門で、肌に関しては言えない部分があるので、この本では、皮膚アレルギーの専門家の大塚篤司先生に肌のご説明をしていただきました。子どもは避けたほうがいいメイクや、肌荒れ対策について解説していただいています。ただやっぱり肌トラブルが出たら、家庭で対処するのではなくすぐにクリニックにかかっていただきたいですね。
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私も、子どもの肌にファンデーションを塗ることは推奨していません。眉毛も手を入れる必要はないと思っているので、そのページはありません。眉毛は子どもの魅力的な額縁のひとつで、切る必要もメイクする必要もないと思っています。子どもに必要のないことはしないというのは、ヘアメイクの視点からも、肌を大切にしてほしいという視点からも伝えています。
――最後に、この本を手に取る大人世代にメッセージをお願いします。
イガリ 私がこの本で一番読んでほしいのは、最初の「メイクをするといいこといっぱい!」っていうページなんです。メイクの方法についてはいろいろなことを試してほしいですけど、まずは楽しむというマインドを持っていただきたいですね。それに今回、小学生向けのメイク本を作るのに、今、一番元気なコギャルたちのエネルギーを借りたくて、モデルのりゅあちゃんに出ていただきました。大人たちも、この本のりゅあちゃんのメイクやファッションを通じて、今、ブームが再来しているコギャルの世界観を楽しんでほしい。身近な大人がまず楽しむことで、子どもも一緒にメイクを楽しめると思いますね。
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取材・文=川辺美希
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