大友花恋「小学生時代の母の教育のおかげ」Seventeenで2年間書き溜めた短編小説をまとめた『ハナコイノベル。』に詰めた思いとは【インタビュー】
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俳優やモデルとして活躍中の大友花恋さんが、このほど初のフォト&ストーリー集『ハナコイノベル。』(集英社オレンジ文庫)を出版する。雑誌「Seventeen」の専属モデル時代に2年にわたって書き溜めた28の珠玉の短編小説に、25歳の今書き下ろした新作を加えたとのことで、元読者にはちょっぴり懐かしい&うれしい一冊になりそう。本に込めた思いについて、大友さんにお話をうかがった。
●あの頃の自分の気持ちが重なる物語たち
――この本は元々、雑誌『Seventeen』で連載されていたものをまとめられたそうですね?
大友花恋さん(以下、大友):はい。18歳の高3の頃から2年間連載していたものです。元々エッセイの連載をやっていたのですが、リニューアルのタイミングで「短編小説にしてみましょうか」と提案していただいて始めました。
――エッセイから短編小説って、結構大変な変更なのでは?
大友:最初こそ不安でしたけど、1作目の「リトープスのはなし」を書いたらすごく楽しくって、これなら続けていけるかもって思いました。毎回テーマには悩みましたけど、それが決まって道筋が立ったら文章にするのはそこまで難しくはなかったんです。
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実は小学校の頃に作文の宿題を母が添削してくれて「何を書きたいの?」「こういう感じで書きたい」「じゃあそれが成立する文章を書かなきゃね」とやり取りした感覚が自分の中に残っているので、今回も「この季節だからこういうものを書きたい」とか「こういう写真を撮ってもらいたいからこうしよう」と考えていけたし、テーマが決まれば楽しく書けました。
――物語が写真とセットになっているのも面白いですね。
大友:ファッション誌での連載だったので、「写真」とモデルの個性が合う企画にしようという考え方が最初からありました。難しかったのは文字数で、写真とのバランスを考えると絶対に1200字ぐらいにしなくちゃいけないんです。物語を読むのに慣れていない方でも楽しめるように複雑すぎない話で、でもちょっと秘密があって後半にかけて謎が解けて――みたいにしたら面白いと思って書いてましたね。ただ、あらためて今回読み返したら、自分がその頃に考えていたことが作品に重なっているのにも気がつきました。
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――例えばどんなところでしょう?
大友:「卒業式のWind Orchestra」は吹奏楽部のマネージャーをずっとやっていた子が思いもよらないところで自分が役に立っていたことを知る話なんですけど、あれは当時ドラマの仕事とかで「自分はあまり役に立ってない」って思っていた自分と重なります。
ドラマの撮影が終わったときにスタッフの方から「あの時、こうしてくれて助かりました」と言ってもらえて、「まだまだと思ってたけど、ちゃんと歯車になれてたんだ!」とうれしくて。そんな実感が重なっていますね。
――一番お気に入りの話は?
大友:「雨のひとりごと」かな。雨の日に部屋でだらだらして動けない女の子の話なんですけど、世の中は動いていても自分はずっと停滞してる、みたいな感じを、ぼつぼつしたセリフだけで書いた物語っぽくない作品で。小説も好きなんですけど、撮影もすごく楽しかったです。
物語のイメージを受けてメイクさんはあえてスキンケアだけで済ませるようにしてくださって、カメラマンさんも「この辺でゴロゴロしようかな」みたいにラフで、物語の世界をより広げていただきましたね。
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――では、一番書くのが難しかったのは?
大友:圧倒的に「ホワイトクリスマスを君と」です。クリスマスの話なので最初は恋愛小説にしようと思っていたのですが、当時の自分には「恋愛とは?」って「?」が止まらなくなってしまって、何度書き直しても納得いかなくて。「恋愛の話はやめよ!」って決めてようやく辿りついたものの、恋愛の話は難しくて必死でした(笑)。
●「物語」の世界に救われていた
――ラブストーリーだけじゃなく、ミステリーありホラーありで、その引き出しの多さにすごく驚きました。ご自身は読書好きとのことですが、それも影響していそうですね。
大友:そうですね。私の本との出会いは湊かなえさんの『告白』で、そこから本が好きになって最初はミステリーばかり読んでいたのですが、はじめて恋愛小説をちゃんと読んだときに「同じ『小説』でも、こんなに受け取る感情っていろいろあるんだ」と知って。おこがましいですけど私の連載で読者の方が好きなジャンルを見つけたり、違うジャンルを読んだりするきっかけになれたらと思っていたので、意図していろいろ書くようにしていました。
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――読者も同世代だから刺激になったかもしれませんね。ちなみにご自身の周囲は本を読んでいましたか?
大友:あまりいなかったかも…「お弁当の前にちょっと図書室行ってくるね」って言う私を、みんなポカンと見送ってくれている感じでしたから。でも私は物語の世界にすごく救われていたので、周りにそういう人があまりいないなと思っても気にならなかったです。
――物語に救われた?
大友:中学生の時からモデルのお仕事をしていて、本当に高校時代は地元の群馬県とお仕事をしている東京を行ったり来たりしていたんですね。そんな中でたまに学校にいる自分とお仕事をしている自分のギャップに思考が追いつかなくなってしまうときがあって。学校のテンションのまま現場に行っちゃうとか、その逆もそうですがグチャグチャっとしてしまうと、周囲との間にちょっとした違和感みたいなのができちゃうんです。そんなとき、移動中に本を読むと「自分じゃない世界」に行ける感じでリセットできて、次の現場に合わせた自分に戻してから次に行ける感覚があってすごく助けられました。
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――そういうときはやっぱりフィクションが効きました?
大友:効きますね。エッセイが好きになったのは大人になってからで、学生時代は本当に物語しか読んでなくて。しかも落ち着いた話よりもファンタジーとかミステリーとか、ちょっと自分から遠い方が没頭して読めました。
――一番多感な時期の不安定な心をリセットしてくれるって、物語の力ってやっぱりすごいですね。
大友:それこそ文庫本なら手のひらの中に収まるのに、この中には「違う世界」がいくつもある。いつも「自分は大丈夫。私のバッグの中には違う世界が入っている」ってすごく心強くて、逆に本を持ってないで電車に乗ってしまったら、「どうしようどうしよう」ってちょっとソワソワしちゃう感じになりました。
――ちなみに本をどんなふうに選んでいましたか?
大友:私はその作家さんが好きになると数珠繋ぎで、その人の本しか読まないんです。で、読み切ったと思ったら次の作家さんにまたハマって、読み進めるっていうのが結構多いんですね。なので湊さんの本を片っ端から読み漁ってからは、有川浩さん、西加奈子さん。市川拓司さんにハマった時期もありましたし、江國香織さん、山本文緒さんも読みました。ちなみに今はさくらももこさんのエッセイをずっと読んでいます(笑)。
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●再確認した「書くこと」の大切さ
――実は描かれた物語のそこここに「ちょっとした痛み」を感じたりしたんですが…。
大友:ダークな話を読むのが好きなので、盛り上げようと思ったときにそっちに転びがちな部分はあったかもしれません。ただ、すごく苦しかったわけではないですけど、でも全く辛くなかったかって言われたら多分そうじゃなかった。その時の自分の中にあった小さな痛みを薄く伸ばしたりとか、あとは掘り下げてみたりとかしながら書いていた部分はあったと思います。
SNSだと投稿に反応があるので、痛みを伸ばす場所としては小説のほうが私には合っていると思っていて。小説の場合は、痛い時間があっても最後に救われる話を書いたら、こっちの心の痛みまで治してくれるみたいなところもあって、託しやすかった気がします。
――今回、書き下ろしも入っていますが、実はそこからは「人生に悩んでいる感じ」もして…。
大友:連載の最終回が「自伝」で、その後の私がどうなったかを物語にしたのですが、連載時は物語というより言葉の響きや雰囲気を重視したものだったので、もっとリアルに落とし込んで、自分の思っていることもたくさん入れて、何も気取っていない3年後の自分を描きたいと思ったんですね。
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なので「こんなことまで書いていいのかしら」って思う人もいるだろうし、「本当かも」と思うかもしれないし、逆に気まずくなっちゃったりする人もいるかもしれないし…。でも現実とフィクションの境目を溶かしたものを書くぞって覚悟を決めて向き合いました。
――「自分の位置」を一生懸命探しているような印象をすごく受けました。
大友:自分に何ができて、自分は何が好きで、自分は何を求められているかっていうのを考える機会がすごく多いので、この主人公の子にも同じ悩みを映しました。いつもはゴールも決めて書いているんですけど、今回は本当にゴールもわからないまま、主人公とひかりさんという女性の言葉を自分に言い聞かせるように書いて、私自身も書きながらヒントをもらったし、整理もできました。
――「書くことの意味」そのものがご自身にとって変わった感じだったんですね。
大友:普段からおしゃべりではあるんですけど、頭の中にたくさん言葉が詰まっていてパンパンになっちゃうので、一度外に出して読み返して確認するのはすごく特別だと思いましたね。実は『Seventeen』を卒業したタイミングでブログをやめたんですけど、そうしたら自分の思考を整理する場所がなくなってしまって。
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今回、久しぶりに自分のことを書こうとしたら「自分は頭の中で整理しきれなかったことを、文章にすることで整理してきたんだ」っていうことを思い出しました。
――ブログをやめてから、言葉はずっと自分の中に溜まり続けていた?
大友:割と閉じ込めていましたね。どうしてもってときはノートとかに書いたりはしていましたけど、自分が考えていることだけを文章にするのはすごく久しぶりでした。読者の方に向けて書いているつもりだし、読者の方に届ける責任はちゃんと負わなければならないと思ってはいるのですが、気づいたら自分に向けたものになっていたというか。書くことが救いにもなって、心からよかったと思っています。
――これからも「書くこと」は続けたほうがよさそうですね。
大友:はい。何かに載せたいとかではなく、私は書かなきゃやってられないだろうって思いました。連載していたときにも悩みや葛藤はいろいろありましたが、こうして一冊にまとまったことで一区切りついた感じがするというか、これはこのまま大切に取っておいて、今はまたリセットして、ゼロからフラットに進めるなって気がします。
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――人生の第二シーズンスタートですね。今回の表紙もやっぱり連載当時からするとすごく「大人」になってますもんね!
大友:この撮影は本当に大変で、場所は下田なんですけど朝の4時前くらいからメイクを始めて朝日を待ちましたが、とにかく風がひどすぎて目があけられなくて…でもすごく気に入っています。本当に、今は人生のワンクールが終わって、「次、いっちゃいますか」って気持ちです(笑)。
取材・文=荒井理恵、撮影=金澤正平、ヘアメイク=北原果、スタイリング=miku
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