
2023/11/21
紫式部と同時代、自らを“平凡な女”と称した朝児の執筆への情熱。静かな感動が染み渡る、豪華絢爛な平安絵巻
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『月ぞ流るる』(澤田瞳子/文藝春秋) ただ煌びやかなだけ、華やかなだけだったら、平安という時代に、これほどまでに狂おしいほど惹きつけられることはなかっただろう。多くの人が、時代を隔ててもなお平安時代を描いた物語、特に宮中の物語に心揺さぶられるのは、男にしろ、女にしろ、そこに生きる人々に強い矜持を感じるためではないだろうか。栄華の陰にある無数の悲しみ、血生臭さ、怒り。それらを乗り越えて、力強く生き抜こうとする人々の強さに圧倒されずにはいられない。
そんな時代、特に、平安中期の宮中を描き出すのが『月ぞ流るる』(文藝春秋)だ。この本は、2021年『星落ちて、なお』(文藝春秋)で第165回直木賞を受賞した澤田瞳子氏による最新刊。平安時代といえば、2024年の大河ドラマ「光る君へ」で描かれる『源氏物語』を描いた紫式部が生きた時代というイメージが強いだろうが、ここで描かれるのはそれと同時代を生きた、赤染衛門こと、朝児(あさこ)の姿だ。日本初の女性による女性のための歴史物語『栄花物語』を生み出した彼女は、宮廷で何を見、何を感じたのだろう。目の前で繰り広げられるそれに心を痛めながらも、自分の道を模索する彼女の姿にはすっかり虜にさせられてしまう。
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