
2023/5/26
恩田陸が描くミステリー・ロマン! 豪華客船と“呪われた”小説… 謎と秘密を乗せた航海が始まる
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『鈍色幻視行』(恩田陸/集英社) 「密室」とは、私たちミステリー好きにとって、なんて甘美な響きをもつ言葉なのだろう。外部から切り離された閉鎖空間。そこでは、その場でしか生み出すことのできない独特な空気が醸造される。そこで育まれるのは、友情なのか、愛情なのか、それとも、憎悪なのか、嫌悪なのか。ミステリー好きならば何が巻き起こるのか、見届けずにはいられない。
そんな、ミステリー好き、さらには映画好きを虜にするに違いない物語が『鈍色幻視行』(恩田陸/集英社)。15年の連載期間を経て、書籍化された恩田陸氏によるミステリー・ロマンだ。海の上の豪華客船。そこに集められた一癖も二癖もある乗客。彼らが皆、愛してやまない“呪われた”小説と、頓挫し続けるその映像化……。ミステリー好きならば、そんな舞台設定を知るだけで、心躍らずにはいられないが、実際、ページをめくれば、もう止まらない。恩田陸流『オリエント急行殺人事件』とでも表現すればいいだろうか。誰も逃げ出せない「密室」で繰り広げられる胡乱な人間たちの会話は、アガサ・クリスティ作品を彷彿とさせる。『冷血』や『シャイニング』、『マラソンマン』など、ホラー映画、スリラー映画の名やエピソードが多数登場するのも映画好きとしては嬉しい。自分も船に乗り合わせたような息苦しさの中で、“呪われた”作品の謎を追えば、ゾクゾクさせられっぱなし。どうして人はこうも禍々しいものに惹かれてしまうのだろうか。高揚と不安とが混じり合うような奇妙な心地のまま、そこに何が隠されているのか、焦るように真実を追い求めてしまう。
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