「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」
マリーアントワネットはそう言うかもしれないが、わたしは欲張りなので、朝からマカロンもフレンチトーストも選ぶことができるパリのラデュレ本店にやってきた。
時差ボケという名の早起きで、朝7時に起きるという奇跡を起こしている。
流石にパリの街を、半纏とジャージで歩くわけにはいかないと、珍しく真っ白のフリルがついたブラウスを着て、目の前に運ばれてきたお通しらしき生クリームと向き合っている。
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」
マリーアントワネットはそう言うかもしれないが、わたしは欲張りなので、朝からマカロンもフレンチトーストも選ぶことができるパリのラデュレ本店にやってきた。
時差ボケという名の早起きで、朝7時に起きるという奇跡を起こしている。
流石にパリの街を、半纏とジャージで歩くわけにはいかないと、珍しく真っ白のフリルがついたブラウスを着て、目の前に運ばれてきたお通しらしき生クリームと向き合っている。
これは、一体何に使うのだろう。
むむむっと難しい顔をしてクリームをいろんな角度から見つめていると、カプチーノと一緒にフレンチトーストセットが運ばれてきた。
チョコレート色のグラデーションを描くカプチーノ、こんがりきつね色をしたフレンチトースト、ちょこんと座っているプリンセスのようなマカロンたち。
これが、マリーアントワネットの食卓か…と、うっとりさせられる。
クリームたっぷりのケーキや宝石のようにフルーツが散りばめられたタルト。
華やかで360度どこからみても可愛いしか出てこないドレスやアクセサリー。
どこを切り取っても美しい絵画のようで、女の子の好きがいっぱい詰まった映画『マリー・アントワネット』は、何度見たかわからない。
ソフィア・コッポラの描く少女は、いつだって美しさの中に憂いをはらんでいて、惹きつけられる。
そして映画『マリー・アントワネット』に登場するたくさんのスイーツは、ここラデュレが手がけたんだとか。
いつかフランスに行ったら食べたいと思っていた、、このティファニーブルーのような水色をしたマリーアントワネットという名前のマカロンは、ずっと憧れのお菓子だった。
一口サイズで、食べ切れてしまう1個400円の夢。
あまりにも甘すぎる。
甘さの奥には、紅茶をほんのりと感じることができ、「寝起きでマカロンを食べているんだぞ」という謎の優越感に浸ることができる。
マリーアントワネットの凜とした華やかさを、見事に表現しているマカロンだった。
いつかわんこ蕎麦ならぬ、わんこマカロンに挑戦したい。
多分、3個でギブアップする自信がある。
フレンチトーストは、ふわふわドレスを着たお姫様のような生地感で、とても繊細な味がしている。
普段がさつに生きている人間には、到底表現しきれない領域だ。
フレンチトーストは、本来固くなってしまったパンを生き返らせるために生まれたはずなのに、最初から令嬢系パンが使われているなんて…。
普段、朝ごはんはしょっぱいものしか食べないので、甘いものだらけで胃がびっくりしているのがわかる。
これは、この後ヴェルサイユ宮殿に行くための洗礼だ。
多分今、わたしの身体はお砂糖とマカロンと素敵な何かで出来ているに違いない。
高校時代は、朝ごはんにコンビのショートケーキやモンブランを食べていた時期もあった。
朝早く登校しないといけない催し物の日は、朝ごはんをみんな持ってきていたのだけれど、苺の乗ったショートケーキを食べているわたしを見て、隣の席の男子がぎょっとしていたのを今でも覚えている。
しかし、ビールと出会ってからは、唐揚げや塩辛などしょっぱいものを好むようになり、甘いものをあまり食べなくなってしまった。
ディズニープリンセスに憧れた小さい頃の自分とは、何もかも変わってしまったと思っていたけれど、あの日写真越しで見たヴェルサイユ宮殿の鏡の間を訪れるという夢だけは変わらず残っていた。
緊張のせいか、念願のヴェルサイユ宮殿には、早く着きすぎてしまった。
事前に買っていたチケットで入場するには、数時間待たなければならない。
そうとなれば、朝ごはんをやり直そうじゃないか。
ヴェルサイユ宮殿の中で食事を楽しむことができる「ORE(オール )」にやって来た。
金色のテーブルに、値段が書かれていないメニュー表、窓から見えるヴェルサイユ宮殿。
当時の貴族達の気持ちを勝手に理解した気になれる、美しいレストランだ。
ルイ14世は夕食のフルコースのあとに、鶏2羽、鳩9羽、シャコ1尾、若鶏6羽、仔牛肉4kg、若鶏羽を追加注文するほどだったと言われているので、わたしも見合う人間になるべく胃袋を強化せねば。
シャンパンにお通しのシュークリームっぽいパン、サイゼの青豆のサラダにしか見えない何か。
メイン料理のサラダチキンのような鶏肉には、ウエディングドレスのような真っ白なソースがかぶせられる。
この新婚鶏肉の永遠のパートナーとして登場したのがお米だった時、思わず泣きそうになった。
やっぱり、心のどこかで米を欲していたのかもしれない。
デザートのモンブランと睨めっこした後、まだ時間があったので庭園をお散歩することに。
豪華絢爛な噴水を通り抜け、適当に歩いていたら、マリーアントワネットが愛した人と密会していた愛の神殿にたどり着いた。
その先には、彼女が宮殿疲れした後に 、農村生活を営み住んでいた村里が広がっていた。
池では魚が泳いでいて、馬や山羊なども伸び伸びと緑に囲まれ暮らしている。
このままレジャーシートを敷いて、お昼寝できたらどんなに幸せだろうか。
ここでのほほんとするのもいいけれど、入場時間も迫って来たのでそろそろ向かわないと。
しかし、わたしはどうやらとんでもなく遠くに来てしまったらしい。
この日、1日で歩いた距離はなんと約15キロ。
足がちぎれそうになりながらも、小走りして着いた頃には、もう閉館時間になっていた。
ヴェルサイユ宮殿に行って、鏡の間を見ることなく、田舎とメェメェ鳴く山羊だけ見て帰ることになるなんて。
わたしの夢が叶うのは、まだまだ先になりそうだ。
ハッピーエンドはまだ来ない。
地図の読めない伊能忠敬として、歴史の教科書に載る日が訪れますように。
PS.帰国後に映画「ベルサイユのばら」を鑑賞したら、一目でオスカルに恋に落ち、心に革命が起きました。